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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)13296号 判決

被告 富士銀行

理由

一  《証拠》によれば、原告(所管庁東京国税局長)は、全国勤労者音楽協議会連絡会議(以下「本件滞納者」と称す)に対し、昭和四一年一〇月七日現在、既に納期の経過した昭和四〇年度分源泉所得税(本税)計九八六、八〇五円及び不納付加算税計九七、八〇〇円、以上合計一、〇八四、六〇五円並びに各本税額に対しその法定納期限の翌日から完納に至る迄国税通則法第六〇ないし六二条の規定により計算した延滞税の国税債権を有していたことが認められ、これに反する証拠はない。

二  被告銀行四谷支店に別紙預金債権目録記載の預金者名義を坂井善子とする普通預金がなされていること、原告が昭和四一年一〇月七日右預金債権(金一、三九四、三一〇円)及び同日迄の確定利息(金一、五八八円)につき国税徴収法第六二条に基づくものとしての差押をなしたことは当事者間に争いがなく《証拠》によれば、右差押は本件滞納者に対する前記国税債権の徴収のため行われたものであり、且つ原告は同日右差押債権を即時原告に支払うよう被告銀行にその履行を請求したことが認められ、これに反する証拠はない。

三  《証拠》によれば、右預金の名義人は住所を「新宿区信濃町二五」とする「坂井善子」とされているが、右にいう「新宿区信濃町二五、坂井善子」に該当する者は住民登録されておらず、又右住所に居住していないこと、右住所は本件滞納者の事務所の所在地と同一地番であること、昭和四一年一〇月一三日本件滞納者から東京国税局長宛に提出された右預金差押に対する異議申立書では、右預金が自己に属さない旨の明示の主張がなされていないこと、右預金には全国各地の勤労者音楽協議会(いわゆる労音)から入金されたものがすくなからず含まれていること、又右預金に入金されている小切手は、多く、本件滞納者の事業活動に関係の深い芸能関係者から振出されたものであつて、そのうちには、明白に本件滞納者の機関紙「月刊労音」の広告料金等として本件滞納者宛に振出されたものも存すること、昭和四四年一〇月二三日に被告銀行四谷支店に坂井善子と名乗る女性が来店しているが、同人は本件差押以後の利息の支払請求のみを行ない又「二重課税が不当である。」とか、「滞納税金より差押えている預金の方が多い。」等と申述して、右預金が本件滞納者に帰属するものであることを前提としていると見られる行為をなしていることが認められ、これらによれば、右預金は本件滞納者が架空の坂井善子なる名のもとになしたものであつて、本件預金債権(前記利息を含む)は本件滞納者に帰属するものであると認めるを相当とする。右認定を動かすに足る証拠はない。

四  してみれば、原告は、前記の差押の効力として、右預金債権(利息を含む)及びその遅滞の場合について生ずる遅延損害金取立権を取得したものであり、被告は原告の前記履行請求により昭和四一年一〇月八日をもつて右債権支払につき遅滞に陥つたものと認むべきである。

五  よつて、被告銀行に対し、右預金(一、三九四、三一〇円)及び利息(一、五八八円)並びに右預金に対する昭和四一年一〇月八日以降完済迄商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は理由があるから、これを認容

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